■ 知得留先生の授業 / TheFool 恐怖の授業参観編 席順 □□瀬偽翡□ □□□□□□  偽:偽志貴(幻視同盟) □□□四□□ □□□有□□ □□ア志さ□ □□□ネ□□   秋 ロ 琥 本文ここから _______________________ ある,晴れた朝。 アキラちゃんに頼まれた原稿のせいで寝足りない俺 は,学校についてから寝ている。 「おい。ぐっすり眠っているダブルシキ,起きろ! 予鈴がなってるぞ!」 乾の奴が,俺とシキの両方を起こすためにぐるぐる と回っている。 忙しい奴だ。きっと,今日姉が授業参観に来るから いい子ぶろうとしているのだろう。 「おう。」 四季はすんなり起きた。 で,俺はって言うと, うにゅうん…。 ん……。頭が少しだけ痛い…,線が見える…。 そういえば,眼鏡取って寝ていたんだっけ。 眼鏡を探す。 胸のポケットの中に入れていた。 眼鏡をして・・・と。 「よお,有彦。四季。」 いつものクラスメイトに挨拶を交わす。 その直後に何だか 後ろの方からもわっとしたいやな感じがしたので振 り向いてみる。 何のことは無い。ネロ君が熟睡して体の一部が混沌 に戻っているだけだ。 「また解けてるよ。全く」そう、ぼやきながら、 眼鏡を外して,ナイフを構え,ネロ君の混沌に点在 する点を見る。 たん、たん、たん、 その点をわざと直撃しないように、かつ、点の端を 確実に掠るように, たんたんたんたんたんたん いわば、昔,手と鉛筆でやったあの遊びを、 たったったったったったったったったったったった クラスメイトの直死点とナイフでやる。 たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた 俺も結構手馴れたもので,最近は、考え事をしてい ても, タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ 秒速10刺し位は軽い。 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ こいつを起こすには,普通のやり方ではダメだ。 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ 実際,クラスメイトが何度も彼を起こそうとチャレ ンジしているが, タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ こいつは一向に起きない。 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ 声をかけるくらいじゃ反応しないし, タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ 下手に叩くとすぐ混沌に融けるし, タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ だからといって,アルクェイドとかが力を使うと, 起きることは起きるが, タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ 今度はその余波の被害が大きくなる。 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ 結局,こいつを最小の被害でまともに起こせるの は, タタタタタタタタタタタタたたたたたたたたたたた たタタタタタたたたたたたったったタタたたたタタ 直死点を掠らせて,命に直接危機か…。 たたたタタタたたどすっ! やばい,失敗してまともに刺しちゃった。 急いで眼鏡をかけて中止する。 もう遅いが。 「痛てぇ!」 ネロ君が飛び起きた。 そりゃ,点を刺したんだから,死ぬほど痛い。って 言うか普通なら即死だ。 でも,こいつの場合,666の命がもともとあっ て,かなり亡くなった今でも,あと400位は命が ある。もとからあった分だけで。 ちなみに亡くなった内の209個(ついさっきまで 208個だった)は俺のせいだ。 大本のコアを刺さない限りこいつは死なない。それ は体験で知っている。 よって問題なし。 「何だ,またお前か…。」 こいつも慣れているものだ。 「お前,また寝ている間に融けていたぞ。その癖無 くさないと,また迷子になるぞ。」 こいつは寝たまま融けきると,次起きたとき自分の 居場所もわからなくなるほどに 正に,空間に融け切ってしまう。 俺が見ると,命の(死の)塊が見えるので,解るの だが, 「うむ。それは解っているのだが,最近,どうして も眠くて…」 今のように意識があって融けているならまだマシな のだが。 「また顔が融けてる。直さないとまた刺すよ。」 いたずらっぽく言ってみる。 「宣言しなくても融けたら刺すのに、何を今更」 かちゃぷすかちゃ(0.2秒で210個目から21 2個目) 「いてえ,一度に3個も刺したな。この死徒殺 し。」 「ああ,確かに。でも貴様よりはマシだ。また動物 園一つ食ったそうじゃないか。入場者ごと」 「だからアレは貴様が殺した分の命を補充す」 「ちょっとやめてよ!二人とも。」 弓塚の声がする。 二人とも動きが止まった。 化け物ぞろいのこのクラスの中で,実はこいつが第 二位の化け物だ。(当然だが、第1位はアルクェイ ド) なんせ,死徒(恐らく四季)に噛まれた次の日に は、もうヴァンパイアになっていたとかいうお人 だ。 あと、彼女の恐いところは,学習能力がすごいとい うことだ。 昨日見たことを,今日には自分のものにしてしま う。 ネロ君を狙った先生の黒鍵をみて,3日後に、 自分にきた黒鍵を無傷で、かつ素手で受け止めて投 げ返す、とかいう離れ業をやってのけた時には驚い た。 アレははっきり言って,持てた物ではない。 というより,掠っても肉が焼ける代物だ。 (普通、先生は、火葬式典つきで投げてくる) それを素手で持ってしまったから,すごい。 しかも、それがつい昨日のことである。 そりゃあ,動きも止まる。 「もう授業まで1分と無いのよ!あの先生,今度第 七聖典を持ってくるとか言ってたじゃない。」 それは君のせいだ。 「もし遠野君が」 言い切る前に 「ハイ,おしゃべりはそこまで。ホームルームをは じめるわよ。」 知得留先生がにっこりとして 「それとも第七喰らいたい?」 それでいて,すごく恐ろしげなことを言って(しか も第七聖典持って) 「「「…………」」」 皆席についた。 先生は続けた。 「よし、じゃあ、皆は今日何の日だか覚えているよ ね。」 その先生の問いに,アホな生徒が答える。 「授業参観だろ。けっ,つまんねえ、何でこんなガ キみてえなことべごゅっ!」 最初の犠牲者だ。最前列だったのが災いした。一発 殴られていきなり死んだ。 眼鏡をずらして確認した。死線からして本当に死ん でいる。(生徒残り33人) 「このストーリーに関わる根本的なつっこみは却下 します。翡翠ちゃん,彼を保健室へ。」 「はい。」 霊柩車のほうが早いと思ったが、俺も連れて行かれ そうなので黙っておいた。 翡翠は,無言で死体を運んでいく。病人を持つ持ち 方で。 因みに,隣で見ていた晶ちゃんは,終始震えてい た。 「……あわわわわっわわあわあわわわっわわわわ」 「で,これから,貴方たちの保護者たちが来るので すが,くれぐれも、その方々を巻き込んで 乱闘を起こさないように。とくに、そこの"逆十字 "の面子はその点に留意して。」 "逆十字"とは,ネロ、俺、有彦、四季、アルクェ イド、弓塚の六人のことだ。 後ろから見た席が,ちょうど逆十字の形をしている うえ、いつもこの6人がトラブルメーカーなので, そう呼ばれている。 ああ,俺もトラブルメーカーだとも! なんせ旧い校舎を"殺した"ことあるし。 あの時はすごかった。 俺は,ただ,立て付けの悪い扉のカギを"殺し"、 旧図書室の資料を取りにいくだけだった。 あの本のネタの為。 しかし,どこから嗅ぎ付けたか, 後ろからアルクェイドが抱き付いてきて, 眼鏡が吹っ飛び, "どこを見ても死線"状態になり, 右手のナイフが 扉と,旧校舎全体の 両方の"死の点"を 何も考える間もなく 貫いた, 後50年は持つと評判だった頑丈さを持つ旧校舎 が,一瞬にして瓦礫になった。 アルクェイドがいてくれたから死なずに済んだ。だ からかなり複雑な気分だ。 でも、やっぱり責めるべきだな。だって,結局資料 も瓦礫の下だし。そのせいで徹夜だし。 脱線ついでに述べておくと,席順は,こんな感じ だ。因みに,×印は,今いない人だ(この世に)。 席順 □□瀬×翡□ □□□□□□  □□□四□□ □□□有□□ □□ア志さ□ ×□□ネ□× すでに昨日までで二人,ついさっき一人死んでい る。残り33人だ。 「では,親御さん方は,入っていいですよ…って, 少ないですねぇ。…貴方たち,親御さん方に何か変 なことでも吹き込みました か?」 皆小刻みに首を振る。でも,本当は,呼んでいな い。呼んでいても,かなり嫌々だ。 こんな黒鍵の飛ぶ教室に家族を呼べるはずがない。 「…なるほど,この面子なら,(琥珀を見る)…本 性を出しても,問題ない…というわけ?(秋葉を見 る)」 先生がぼやく。 って言うか,秋葉、何故来ている?お前の学校のほ うは大丈夫なのか? 「秋葉様,やっぱり翡翠ちゃんの手伝いに行ってき ます。あの子一人じゃ,何かと大変そうですか ら。」 「わかったわ。でも,早く戻ってきなさい。」 琥珀さんは,一拍置いて, 「……はい。」 と答えた。 琥珀さんの目が,光っていた。何かを企んでいるよ うな目だった。 気のせいだろうか。 「先生,俺はちゃんと姉貴呼びましたよ。でも,な ぜか来ないんですよ。」 有彦は言う。 先生は無視して,或る男のほうを向いている 「…あの,何で貴方が」 「息子(シキ)の教わりっぷりと娘(知得留)の教 えっぷりを見たくて来たが,何か不都合でも?」 「……いいえ,何も。でも、一つ聞きたいことがあ るんだけど。この面子にしたのは貴方?」 「いいや、此処にいる奴じゃない。だが,俺にもわ からない。」 「…そう。ならいいわ。(一体誰なのかしら。)じ ゃあ,はじめます。教科書の28ページを開い て。」 やっと授業が始まった。 「今日の授業は,弾道計算をやります。」 ……なんか,いつもより物騒だぞ。 それにオチも読めたぞ。 授業開始から暫くした。 翡翠も琥珀さんも帰ってきていない。 で,ただ二人,教室の後ろに立っている秋葉とロア さんは, 「………」 「………」 二人とも殺気立っている。 秋葉もロアさんも,戦闘状態になっている。て言う か,"赤く"なっているぞ、秋葉。 「で、拳銃についているこのらせん状のギザギザ は,弾道安定のために重要な役割を果たします。」 先生の授業は,いつ聞いてもスリリングだ。 なんせ,いつ人が死ぬかわからない。 いつも,授業の内容が危ない。 だから,普通の生徒は授業中に私語など出来ない。 でも,俺の両隣には, そんなことをあまり気にしないモンスターがいる。 そのうちの一人が話し掛けてきた。 「ねえ,志貴,今日,教室がなんか変じゃない?」 一応かなり小声になっている。隣の俺くらいにしか 聞こえない程に。 「アルクェイド,今,授業中だぞ。それに眠い。」 「うん,解っているけど,…て、さっちん!」 「え?弓塚さん?」 と,反対側に振り向くと, ぶにっ 指があった。 「引っかかった引っかかったー!」 こちらも一応小声だ。 「さっちん,おぬしも悪よのう。」 俺はあきれている。でも目が覚めた。 「今ので目が覚めたよ,有難う。」 「本当,やったー!」 「いぇー」 最近この二人は仲がいい。 と言うより,息が合っている。 弓塚さんが,吸血鬼になってからノリが良くなった のだろう。 さっちん&アルク…名実共に女子最強である。 この二人にからまれたら,無事ではいられない。 「ねえ,志貴君,確かにアルクの言うとおりだよ。 なんだか、こう、ここだけ、どこかに飛ばされたみ たいな,」 「どういうことだ?」 「あら,さっちんも気がついていたんだ。」 「うん、ここって,確かに先生の言うとおり結界が 張ってあるよ。」 「そうか?何も感じないけど。」 言い返した。だって,本当に何も感じない。でも, 確かに異様だ。クラス変え後最初の参観日だと言う のに,いつもより人数が少ない。 3人は異常だ。 で、この二人はもっと異常だ。 「うん,能力を持たない大人にしか効かないみた い。生徒は素通りできる奴。ね、アルク」 「うん。」 何を言っているんだ? さっちんもアルクも。 俺はわけわからない。 「でも、好都合ね。」 「うん。」 待て,何を企んでいやがる? 「さっき先生が『この面子なら本性を出しても問題 ない』って言ったけど,それは私たちにもいえるこ と。」 「つまり,今ここでシエルと私達が乱闘に見せかけ て決着をつけても……」「待て。」 あまりもの内容がアレなので,いちど待ったをかけ た。決着って何だ? しかし,そんなものでは我らのさっちん&アルクは 止まらない。 「で、具体的にはどうする?」 「だから,話を進めるな。」 止めても止まらない。 しかしながら,俺が大声を出したら,黒鍵は俺が喰 らうことになる。 だから大胆な行動にはでられない。 そしてそれゆえに二人の話は進む。 「うん、とりあえず、決着つけるついでにシエルの 権威も失墜させようと思うんだけど。」 「だったら,向こうが攻撃してからにする?」 「正当防衛を装う…か,いいねえ。」 「だからやめておけ。」 「そうしよう。」 「じゃあ,どちらかが攻撃を受けて倒れるのを合図 にするね。」 だんだん、授業が俺から遠くなっていく。 二人のせいで。 ああ、もう目が光っているよ。 眠れないなら,せめて授業を聞いておきたいのに。 「……弾丸…………ですから、回転を……」 もう,授業が耳に入らない。 「お熱いこって。先生に殺されても…」 有彦が前を向いたまま俺に皮肉って… 殺気! 俺は体を右に傾けた。 シャアアアアアアアァァァァァンンンンン! 白墨が,今まで俺の頭が在った所を銃弾のスピード で通り過ぎ, そのまま, 「んん?何、だらがあー!」 今丁度机から起きたネロ君の頭にめり込んで,頭を 半分持っていく。 因みに,ふっ飛ばした頭の一部は,後ろの壁にあた った。 皆固まった。 「先生……いきなり…それは無いんじゃ…ないんで スカイ?あと、俺も少し掠ったんですけど。」 かろうじて有彦が独り言のごとくつぶやいている。 そりゃ,クラスメイトの顔がえぐれるくらいの (被害者がネロ君だけでも)事件が起これば固まる わな。 と、秋葉が、 「いくら異能者しか参観に来ていないからと言って も,いきなり頭えぐれるチョークを投げなくてもい いんじゃないんですか、先生。」 秋葉,また髪の毛が赤いよ。そこまで怒らなくても …て,"大事な兄"が死にかけたから当然か。 そして、指摘された先生は,笑顔を絶やさず,とん でもないことを言った。 「いいえ,今,銃弾を真っ直ぐ飛ばす原理を志貴君 に実地で教えてあげただけです。 両隣の二人に邪魔されて聞いてなかったみたいです から。」 って,先生,今のは本気で危なかったっす。 「だからといって,人の兄を死なすような」 「「先生,今のチョークは回転させすぎです。」」 ネロ君と弓塚さんの声が同時にあがった。 弓塚さん,あなた,見えていたんですか? あんなに話し込んでいたにもかかわらず,あんな高 速で飛んでいたチョークの回転まで。 場に一瞬の沈黙が訪れ, 「そうね、まずは,その二人を納得させてみなさ い。それからにするわ。」 どうやら秋葉は一度引いたみたいだ。 髪の毛赤いままだけど。 とりあえず,死闘はまだみたいだ。 「さつき君から,」 「いいえ,顔半分吹っ飛ばされたほうから」 「…それもそうだな。(顔戻して、と。)で、い ま、顔を破壊された瞬間の感触からして, かなり破壊力が大きかった気がして,それで」 「ああそれ。破壊力は,むしろチョークの先が平た かったから大きくなったのよ。今みたいに,他の人 に当てたくないときとか、 (志貴君がよけたから君にあたっちゃったけど,) あと、確実に着弾箇所を破壊したいときは,平たい 弾を使って,運動エネルギーの大半を衝撃に変える 方法を取るの。」 「じゃあ、回転じゃなく,そっちのほうだったんで すね。原因は。」 「ええ,そうよ。」 「それならいいです。」 ネロ君は納得したようだ。 着席した。 「じゃあ,今度は私。先生,チョーク2本貸してく ださい。 実際見てもらったほうがわかりやすいですから。」 「いいけど,人殺さないようにね。」 先生が言う台詞じゃありません。 「大丈夫ですよ。さっき,先生が投げたチョーク は、このくらいのスピードでしたね。」 チョークがさっきと同じスピードで飛んでいく。 それが、黒板にあたって砕け散る。 黒板に穴を残して。 「確かに,この回転のほうが弾道は安定しますが, 着弾スピードを優先させて,このくらいのほうが」 ズッキュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン! 何だかすごい音を立てて,白い弾丸が、人知を超え たスピードで, ゥゥゥゥゥゥゥゥンゥゥゥゥンゥゥンーン エコーまで聞こえるよ、すごいよさっちん。 弓塚さんの手から,先生の眼鏡、左目レンズの中心 に真っ直ぐぶつかる。 ピシッ そういう音を立てて,白い弾丸だけ壊れる。 先生の眼鏡はびくともしていない。 「実戦では使えるんじゃないんでしょうか。」 「実戦ではね。」 先生,何故,何事も無かったかの如く答えているん ですか? 「………あと、今狙った場所はわざと?」 「はい,遠野君の代わりに仕返しです。あの眼鏡が 壊れないからといって,眼鏡の左レンズ中心をピン ポイントで狙って驚かそうなんてやりすぎです!」 「……その言い回しと声帯模写もわざと?」 「はい。」 アルクェイドが,親指を立てて,さっちんに無言の エールを送っている よくわからない人に説明しておくと,今,弓塚さん は,先生の声で話した。 彼女は「一人職員会議」が出来るほどのレベルの声 帯模写の達人だったりもする。 因みに俺を含む何人もの人が、彼女の声帯模写のせ いで、秘密をばらされてしまった経験がある。 「じゃあ、今日は,気分を変えて,このまま授業を 続けましょうか?」 負けじと先生も弓塚さんの声を真似した。 “あまり使いたがっていない父の記憶"のなかにあ ったのだろう。恐らく。 先生が使う技の殆どは父親の仕込んだ技らしい。 修行を思い出したくないと言う理由で、あまり使い たがっていない。 はずだが、よく使っている。 で、その父親は、今は後ろで、 「………」 何も言わずに感心していた。 「いいですけれど,他の人が混乱しますよ。」 言えている。実際に生徒の大半は 『………………』 あっけに取られている。 「先生上手ですね。」 「弓塚さんこそ」 なんだか聞いてると,頭が混乱する。 活字だと今の技も,混乱している感触も,解らない かもしれないが、 今,先生が弓塚さんの声で「先生上手ですね」と、 逆に,弓塚さんが先生の声で「弓塚さんこそ」と、 それぞれ言った。 つまり,相手の台詞を相手の声で言っている。 これはきつい。実際聞いてみろ、混乱するぞ。 って、誰に行っているんだろう。 その入れ替わった状態で,二人は 「「フフフフフフ」」 やばい、顔が笑っているにもかかわらず,目が笑っ ていない。 二人とも。 「………」 いや,秋葉も含めて三人か。 しかも企み笑いをしていないのに髪の毛が赤い。 企んでいない笑いをして、髪の毛が赤いときは,キ レる寸前だ。 ついでにいつのまにかBGMが戦闘の音楽に代わっ ている これは誰か死ぬな。恐らく,あの三人以外の誰か が。 この教室で戦闘状態に入った場合,大体,当事者以 外が死ぬ。特に,"逆十字"対先生の場合。 がちゃっ… 扉が開いた。 翡翠だ。 「先生、秋葉様,遅くなってすいません。」 「「どうしたの、翡翠(さん)??」」 秋葉と先生が答えた。そして、3人の戦闘状態が解 けた。ついでに声も元に戻ったようだ。 「いえ、さっきの———君のコトなんですけど。」 名前だけ聞こえないのはなぜだ?翡翠。とつっこも うと思ったがやめた。 さっきまでの殺気120パーセンツな状態には戻し たくない。 「彼,見るからに意識が無くて,姉が色々と手を尽 くして,何とか意識は戻りました。」 ちょっとマテ,それが本当ならすごいぞ琥珀。 だって,確かに死んでいたし。 俺が言うから間違いない。 アレは死体だった。 どうやって生き返らせた? 「その後,姉が『この人,今の状態じゃ,命が危な いから、救急車がくるまで付き添います。それまで 参観のほうは秋葉様に任せます』って。」 「……翡翠,あとで琥珀に『あとで屋敷の地下室に 来ること。言い訳はそこで聞きます』って伝えてお いて。」 地下室ってなんですか?家にそんなものありました っけ?在ったとして,俺,入り口知らないんですけ れど。 ……翡翠が死ぬほど青ざめているし。 一体俺の知らないなにをぱらっ 秋葉の髪の毛にはたかれた。 当然,目に見えないほうだ。いや,髪の秘密を知っ た後で、今までこっそり喰ら わなかったのが奇跡なんだけど。 「兄さんも,遠野家の一員なんですから,もっとし っかりしないと困ります。いきなり先生の注意を受 けるなんて,遠野家の恥じゃないですか!」 そういいながら、檻髪で何発も殴る。 略奪以外にもこんな使い方があったか… 「まったくです、秋葉ちゃん、もっと言ってやって 下さい。」 「そうだ,言ってやれ,秋葉,こいつのせいで,俺 も乾も何度も死んでいるんだ。」 「有彦,四季、うるさい。」 「「ああ,今はこのくらいにする。」」 すんなり引き下がった。 珍しいと思ったが, 「「俺達まで秋葉(ちゃん)にいやな目でみられた くはないからな。」」 理由を聞いて納得。 …… どうやら,矛先は全て俺らしい。 そして,その矛は, 「兄さん,あとで,琥珀と一緒に地下室に来なさ い。」 見事に俺の心臓に突き刺さった。 ……どうやら,今夜は家の中の新天地に逝けるらし い,ラッキー……じゃない。と思う。 「琥珀,さっきの台詞に追加。『兄さんを連れてこ ないと言い訳聞く前に2セット』って。」 しかも強制。そして,2セットってなんですか? 「兄さんは,初めてだから,1セット…と」 だから何をー! しかも,俺1セットやることになっているし。 で,翡翠はと言うと, 「秋葉様,いきなり1セットは……」 と,秋葉に聞こえない声でつぶやきながら, 「翡翠,あなたもやる?」 いや,訂正,聞こえていたっぽい。 「いえ,遠慮しておきます。みんな地下に行った ら,地上は誰に任せるおつもりですか?」 翡翠,それは正しい。どっちの意味でも。 「それもそうね。……翡翠。やっぱりあなたは屋敷 の見張りしておいて。」 うん、犠牲者は二人で十分だ。君だけはきれいでい てほしい。あの怪しげな屋敷の中で、きっと君だけ だ。心まで穢れていないのは。 そんなことを思っていると、 「ねえ、このくらいにしようよ,さっちんも妹も先 生も,進まないよ。授業。」 アルクェイドが,猫アルクになるほどだれている。 正論言っている程だれている。 もう,ネロだったら混沌に融けている。 「なんか言ったか?」 ネロ、お前心でも読んだのか? 「いや,何も?」 危ない危ない。 で, 乱闘の準備をしていたにもかかわらず、 出鼻をくじかれてしまったさっちんは, アルクに小声で反論する。 「ちょっと、何で止めるの?アルク?あの二人がい い感じだし、このまま乱闘に持ち込んでもよかった じゃない。」 それの小声で答えるアルク 「だからよ!今やるとキレた妹も敵にまわすし、今 のじゃ,さっちんの方が先にシエルの顔に当ててい たからやばいって!」 「…確かに,そうですね。今は引いておきます。」 だから,小声で先生の声帯模写はやめろ。 で、先生と秋葉は, 「そもそもの原因が誰か!はさておき,」 「その妹と言うのは、やめてほしいのですが,」 一瞬,殺気立ったものの, 「まあ,確かに脱線しすぎましたね。」 「兄さんがあまりにもアレなモノでついかっとなっ てしまった事は認めます。」 あっさり認めた。 で,アルクェイドは,少し調子付き, 「うむ,よろしい。」 おい待てアルクェイド,その状況でその言い回しは 「「……(ピキッ)」」 殺気は凄いが,とりあえずは臨界には達していない ようだ。 「じゃ,授業を再開します。で,今、私は白墨を回 転させて安定させましたが,拳銃では…………」 無事,授業は再開したようだ。 普通の生徒は既に集中している。 それもそうだ。アレを見せ付けられたあとだ。 私語をするほうがどうにかしている。 ああ、 「志貴君,さっきの声帯模写,どうだった?」 さっきの今で小声で話しかける弓塚さんはどうにか している。 「弓塚さん,さっきの今で,私語はまずいって。」 「どうして?」 「俺が無敵じゃない。だから、黒鍵喰らったら、死 ぬ。そしてしゃべっていたら、黒鍵喰らう。」 「確かに。でも,私たちが守っているから大丈夫で す!さっちんに任せなさい。」 そういうと、さっちんは、 「そして,そこの猫。」 猫化したアルクェイドに恐い視線を向ける。 「にゃ?」 「今のは借り貸しゼロって事で、いい?」 「……了解にゃ。」 「ならいいわ。」 視線がいつものに戻る。 「でも悪いから,私があとで攻撃喰らうにゃ。」 「うん。忘れないでね,それ。」 どうやら解決したみたいだ。 いつものノリで。 で,少し気になるのは, 「……何だか眠い……」 秋葉が凄く眠そうにしていることだ。 暫くたった, 俺は授業をまじめに聞いている。 後ろのネロ君と前の有彦は寝ている。 横の二人も(自分達の暴走の)機会を虎視眈々と狙 いながら授業を聞いている。 秋葉が死ぬほど眠そうに 「ここで寝てしまっては遠野家のふぁ…いけない、 また寝そうになってる……」 している、そのとき、 「先生,すいません。」 急に翡翠が立ち上がった。 何だか声が企んでいるっぽい。 「今日は始めないのですか?」 急にとっぴなことを言う。 「え,何をですか?」 そりゃ,先生だって聞きたくなる。 で,翡翠はこんな答えを返した 「いつもの乱闘を。」 え?今,乱闘…とか言いませんでした? 確かに乱闘はこの授業につきものだけど, 秋葉が怒っているけど、凄く眠そうだ。 「ひるい,急に何……を…くー…」 秋葉は完全に寝てしまった。 「秋葉様,そろそろ薬が効いてきましたね。お休み なさい。」 眠った秋葉を尻目に翡翠は続ける。 「で,乱闘は始めないんですか??」 「先生は,翡翠さんの意図が全然わかりませんが、 あれは自然発生で,決して起こしたくて起こしてい るわけではないんですよ。」 「の割には,結構楽しんでいるように見えますけれ ども?」 「うっ!……」 確かに,乱闘時の先生は,凄く生き生きしている。 水を得た魚の如く。 そして,先生や,乱闘している皆が活き活きすれば するほど,その下には死体が増える。 そしてそのために保健委員の翡翠が苦労している。 だから,皮肉を言いたくなるのは解る,解るけど… だからといって,ここでそれをリークしなくたって いいじゃないか。 で、乱闘好きの二人は、 「(翡翠ちゃん、第1撃はあなたに任せたわ。)」 「(翡翠、2発目以降は私たちがやるから…)」 翡翠のファーストアタックを待っていた。 「そのせいで、ひ…私がどの位苦労しているのか解 っているんですか?先生が乱闘なんてするから,私 はもう…」 「待ってください,そいつは偽者です。」 琥珀が乱入してきた。 みんなびっくりしている。 「な……!」 つい俺も叫んでしまった。 「ひ…姉さん,」 「姉さん!一体何を企んでいるんですか?」 「ね、姉さんこそ,一体何寝ぼけているんですか」 うん,どこから見ても,後から入ったほうが琥珀さ んにしか見えない。 「何言っているんですか!姉さ ん!私を薬で動けなくして,服を取り替えて,ご丁 寧に,カラーコンタクトまでつけて、一体何を企ん でいるんですか!」 なるほど、そのテがあったか。 確かにそれをやられると,二人とも見分けがつかな いな……って、マテ。 何かおかしすぎるぞ。 「な!何わけの解らないことを言っているの!姉さ ん!」 うん、わけわからないし。俺も。 「いいえ,姉さんを、あなたです!!」 そう言うと, 琥珀は,カラーコンタクトを外し,翡翠色の目を …、って,もろ翡翠じゃないか!! 「こんなことなら,扉開けたときにカラーコンタク ト外して姉さんにぶつけりゃよかった。」 翡翠(本物)……。そんなに攻撃力ないぞ。カラー コンタクトは。それに普通のコンタクトと比べて高 いし(ウチなら殆ど関係ないかもしれないけど。) って、そういう問題でもないが。 「それとも、こっそり姉さんの首もって……」 翡翠、それはしゃれにならない。 で、偽翡翠は、琥珀だった。 「ふう,ばれちゃ,仕方ありませんね。」 どうやら,観念してカラーコンタクトを外したよう だ。一件落着……というわけではない。 「でも、翡翠ちゃんが悩んでいたからやったんです よー,これ。いつもいつも翡翠ちゃんが家事しなが ら保健委員のことをぼやいて」 そうだったのか? 「でも、これはやりすぎです!」 翡翠が怒る。 それも当然だ。 「でも…」 「デモもストもありません!姉さんは,いつも無理 矢理入れ替わって!」 ……いつも?今までも入れ替わっていたのか? 気がつかなかった。 「……そんな事言うなら,こっちにも切り札がある んですよ。さっき,翡翠ちゃんの格好で秋葉様に酷 い事したから,何セットかくるかもしれません」 「え?」 翡翠が一瞬にして青ざめる。 で,そのとき,秋葉は, 「…翡翠…あとで……10セット……」 夢の中でなんか命令している。 「嫌ああああああ!秋葉様、秋葉様,起きてくださ い!アレは姉さんの仕業です!お願いですから、起 きてくださいいいいいいいい!!」 「むにゅう……やっぱり25セット……」 「ひいいいいいいいい!」 「あらあら,25セットですか。恐らく明日は三途 の川のほとりですねー。」 琥珀さん…。さり気に恐ろしいことをおっしゃって いますね。 翡翠は明日まで生きてはいられない様だ。 「…あと、2人をかばった兄さんは35セット…」 待て,何で俺のほうが多いんだ?10セットも。 「おーい、秋葉!起きろ!」 俺は命の危険を感じて,秋葉を必死に起こす。 「あらあら,志貴様は35セットですか。一週間は 死んだままですねー」 一体何が起こるんだ? 「……で、琥珀は58セット………」 「え…」 次の瞬間,琥珀さんはショック死した。 きっと,想像を絶するものなのだろう。 「姉さん,天罰です。」 翡翠…お前時々容赦ないな。 「先生,授業を続けてください。」 「そうね。翡翠ちゃん。」 そして転がった二人を処理しないまま授業を続ける か。先生も。 で、何事もなく授業が始まりそうだった。 しかし、“寝ろ君”が寝ていたため、 「さっきの問題・・・とその前に。ネロ君,起きな さい。寝すぎです。」 と言って,剣を10本投げる。 うん、確かにこいつは寝すぎだ。 一日の睡眠時間が20時間はあるんじゃないかと言 うくらい、寝ている。 でも、剣10本は投げすぎです、先生。 その剣は、 ネロ君の頭の中心に1本、 背骨を内側から真っ直ぐに出来る位置で1本、 両肩に1本づつ、両膝に1本づつ 残りの4本が教室の床に突き刺さった。 「…痛てぇ…って…寝ててすいません先生,で,何 で鳥にたかられているんでしょう。」 さすがの”寝ろ君”も一発で起きたが,その周りに 猛禽類がたかっている。 「鳥葬式典よ。それだけたかればさすがの君も寝て はいられないでしょう。」 はい,先生,無関係な生徒(俺含む)までついばま れています。 一瞬で教室はパニックになってしまった。 "逆十字"の連中は, 「なんなの,この鳥は,倒しても倒しても襲ってく るじゃないって,大丈夫,アルク。」 「大丈夫じゃないわよ!さっちん。こっちなんか視 界が全部鳥よ。」 自分の周りの鳥で精一杯で, 他のことは構っていられない 「四季,こっちにもお前の剣貸せ。」 「有彦,冗談じゃない。こっちも血が足りないん だ。」 かくいう俺も,既にメガネを外してナイフで鳥を殺 しまくっているが,視界の確保と防御がやっとだ。 一体なんなんだ。 鳥の”死の点”がたくさんありすぎて、視線の5割 は”死の線”で埋まってしまっている。 もう、はっきり言って、 視界なのか 死界なのか わけが解らない。 で,真後ろの”鳥のターゲット”は, 「でも、なかなか味はナイスです。」 既に300匹くらい食っている。「食うな。」 いや,先生,だったら俺も『生徒を鳥に食わすな』 と声を大にして言いたい。 あと、ネロ君に、 『もう少したくさん鳥を食ってくれ』 と言いたい。 が、そんなことを言っても、鳥の鳴き声にかき消さ れ、ついでに鳥に食われるのがオチだ。 「いいじゃないですか。先生も一つどうです?」 そんなのんきなことを言っている周りは, 『ぎゃあああ!』 『ひえええええ!』 『きゃあああああ!!』 と,阿鼻叫喚の地獄絵図になっている。 後ろでは,秋葉が,「ウフフフ…翡翠、琥珀、兄さ んも綺麗よ!その一糸まとわない素肌に血を流して いる姿がとても官能的で!」 夢の中の地下室でなんか幸せなことをしているもの と思われる。 寝ているのに髪の毛赤いし。 しかも,四方八方に伸びているー! ロアさんが,既に捕まっている。 「くそ,何で動けないんだ?ただの髪の毛のはずだ ろう!」 いいえ,この髪の毛は,特殊です。 と言う間もなく,ロアさんは毛玉になってしまっ た。 秋葉…最強だよ。 ネロ君は,まだ(自分に刺さった)鳥葬式典にまと わりついている鳥を食っている。 「うむ、意外にいける。こいつらに、概念武装が、 無いから、もしかしたらと、思ったが。」 かなり気に入ったようだ。恐らく,明日から,剣を 突き刺したまま登校するに違いない。 嫌な絵だ。 と思ったが,前言撤回。 「なんだ,この髪の毛は!上から来やがった!くっ そう、この野郎,やりやがったな!」 赤いゲームに出てきそうな台詞を残しながら, 「パトラッシュ……やっと君の所にいけるよ…。」 ネロ君は赤い塊になった。 これでは明日から登校など出来ない。 チクショー!何でこんなにも鳥が多くて進めないん だ?斬っても斬っても次から次へ! と言う状況は2秒前。 今の状況は,2秒前の状況の"鳥"を"秋葉の髪" に置き換えた状態だ。 で、その周りで罪もない生徒たちが,どんどん秋葉 の髪の毛に飲まれていく。 さっきまで皆にたかっていた鳥も同様に。 恐らく、あのクスリが原因だ。 琥珀さん,一体あの薬はなんだったんですか? 翡翠共々赤い塊になってしまった今、 答えが返ってくるとは思えないが、聞いてしまう。 「秋葉ちゃん、君に抱きしめられるのは大歓迎だけ ど,こんなやり方は違うと思うー。」 「秋葉ー!,お前に殺されるなら大歓迎だー!」 有彦,四季,お前らの秋葉に対する愛,確かにわか った。向こう(あの世)で会おう。 あと3人だ。俺とアルクェイドとさっちん。 さっきも言ったが、既に犯人と探偵の姉妹は食われ ている。 先生は,逃げたのか,食われたのか,既に教室にい ない。恐らく後者だろう。だって、今,"教室"と 言うより"秋葉の髪"って状態だし。 先生の居た位置に毛玉出来ているし。 「なんなの,妹の髪の毛,くっついたまま離れやし ない。」 アルクェイド、それはきっと秋葉がネロ君とロア君 の能力を奪って使っているからだよ。 「私にもわからない原理だなんて,一体何なの?」 さっちん、この状態でも分析するか。 「ぎゃああああ!」 アルクェイドだ。死ぬほどの悲鳴をあげている。 急いでナイフをふって、毛を斬り、そっちの方向に 向かう。 既にアルクェイドはどこにもいなかった。 って言うか、秋葉の髪の毛の一部になってどこかに いるんだろうけどどれだか解らない。 今の俺では助けられない。 「待てー貴様、最強の真祖がそんなにあっけなく死 ぬなー!」 と叫びをあげつつ、最後の生き残りのさっちんのと ころへ向かう。 しかし、遅かった。 「きゃああああ!」 毛に全身を捕まえられて、略奪されたあとだった。 「もう,ダメ…。私,今これの原理わかったけど, もう反撃できない…」 さっちん,それじゃ,意味がない。 「待て,さっちん,お願いだから死ぬな!せめてこ の髪の毛が何で動いていたか教えて!」 俺の叫びもむなしく,さっちんは秋葉に食われた。 俺の体も既に固定されている。 これではナイフも振れない。 秋葉,俺の負けだ。 おとなしく飲まれてやる。 意識が落ちるとき、 BM…… そんな言葉をふと思い出した。 そして、 「やれやれ,普通の人が来ないようにしたのは逆効 果だったか。」 蒼崎さんの声が聞こえたような気がした。 次に気がついたのは, 教室の中だった。 乾も四季も翡翠もアルクェイドもいる。 アキラちゃんも琥珀も。 秋葉はいないが、ロアさんやネロ君もいる。 どうやら,今までのは悪い夢だったようだ。 あれ,黒板に文字はあれども先生がいない。 一体どこに… さく。 「授業中に寝ちゃダメですよ。」 知得留先生,そういうオチですか…。 今,ちょうど,後ろから黒鍵でさされた状態だ。 頭を。 今度こそ,恐らく死んだ。 頭から石化していくから,恐らく土葬式典だろう。 ああ,今度こそ死んだな…。 ああ、親父が川の向こうで手招きしている…。 さようならみんな。 俺は一足先に旅立ちます…。 こうなることは解って と、また目が覚めた。 「兄さん!……やっと起きましたか。」 夕方の教室,秋葉と二人っきりだ。 「う…ん?」 「うんじゃありません!兄さん!みんな下校してし まいました。もう私と兄さんしかこの教室に残って いません!」 「え……翡翠と琥珀は?」 「知りません,気づいたときには,もういませんで した。」 「ふうん,珍しいこともあるんだな。」 ふと目をやると,第七聖典が、教卓横に置いてあっ た。 ふと,二つ前の夢を思い出した。 まさか,二つ前の夢が実は現実で, 秋葉がこれと俺以外全部食ったとか…? まさかな…。 起きたとき,メガネをつけていたし。 さっきは取ったまま食われたし、 俺は教室を後にした。 何だか学校全体が静かな雰囲気だった。 まさか……それはないだろう。 そう自分に言い聞かせながら。 家まで帰った。 まあ、秋葉の前に落ちていなかったはずの メガネやら、 剣やら、 俺が持っていたはずのナイフとかが、 秋葉の後ろから、 秋葉の髪の毛から 音を立てて落ちてきたのは 気のせいだ。 変に人肌の温かさなのも、 偶然だろう。 学校に、見張りの先生が一人も居ないように見える のは、ただ見えないところに居るだけだ。 職員室に先生が居ないのも、 みんな早かったから。 部活をやっている生徒が居ないのは、 今日、ドコノ部もキューブだから。 家に着いたとき、有彦の白い学ランがなぜか 秋葉の後ろに丸々落っこちていた。 ストーカーになった有彦が落としたノダロウ。 琥珀さんや翡翠が 家に居なかったりするのもグウゼンダ。 「今日はいったいどうしたって言うの? 琥珀も、翡翠もどこにも居ないじゃない。 一体何やっているんだか。」 「う…うん、き、きっと、買い物にでも出かけてい るんだよ。」 ああ、スコシ時間がカカルだけだ。 スぐモドッテクル でもどこから? 秋葉の髪の毛に、 大小の青いリボンやら、 赤いリボンやら、 白いリボンやら、 翡翠がつけていた白い髪飾りとかが 絡まっているように見えても、 きっと、それは髪の毛の乱反射がそう見せている。 クライヤシキがそう見せている。 アキハガ ミンナヲ オイシク イタダイタ なんていうのは夢に決まっている。 ああ夢だ。 あれが現実であっていいはずが無い。 次の朝起きればみんな戻っているはずだ。 戻っているとも。 ………俺は疲れているだけだ。 ただ偶然が重なっているだけだ。 寝よう。 「自分も偽れない嘘はいかんよ。」 蒼崎先生の声が聞こえた気がした。 秋葉の髪の毛の中から。 「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「兄さん、何か言いましたか?」 「い……いや、何も。」 ああ、少なくとも俺は何も言っていない。 ……今日は寝る。 秋葉、その髪の毛から出てきた腕は何? とは、最後までいえなかった。 だって、アリエナイ。 布団に入って寝よう。 そうすれば、明日には戻っている。 普通の世界に。 /END